これまでの経験から、おこしは硬いという先入観がありました。しかも、一個が比較的大きいです。覚悟を決めて噛んだら、予想に反して軟らかく、をの食感が心地良いです。口の中で溶ける感じで、水飴の甘さと生姜の風味が優しく上品で、ついもう一個、となります。
知る人ぞ知る有田名物「陶助おこし」の店は、泉山の国指定天然記念物「大公孫樹」のすぐ近くに、人の目から隠れるようにして在りました。ご主人は前田光則さんです。
米からつくるおこしは中国にも朝鮮にも古くからありました。供え物として儀礼に用いられ、保存がきくので携帯食としても重宝されたようです。物の本によると「平安時代に遣唐使によって持ち込まれた唐菓子の一種、粔籹の後身」とあり、日本でも優に千年を超える歴史をもちます。
前田家がつくるようになったのは七、八十年前からだといいます.最初は雪竹藤助という人が有田陶器市の前身、品評会の期間中、遠来の客におこしをつくって振る舞ったところ評判が良く、名物として漸次定着していったとか。
雪竹家には跡継ぎがなく、その技法を前田さんの祖母はじめ数人が受け継ぎ製造するようになりましたが、現在は一軒だけになり、前田家では祖母から父、そして光則さんで三代目になります。
名称も「藤助おこし」から「白磁おこし」。一二十年ほど前から陶都・有田に因んで「陶助おこし」となりました。
米を搗いて餅をつくり、その餅をあられにし、それを煎っで膨らませ、水飴と生姜をからませて形を整えて出来上がり、すべて手作業で、材料の配合と工程全部が門外不出の秘伝です。
一日にできる量は三百~四百個。
「大量生産はできませんし、するつもりもない」と光則さんは言います。その「限定品」を、宣伝は全くせず、店頭での直売と注文による発送でさばいています。